まちづくり支援全国交流シンポジウム(2003年1月18日)/静岡シンポ 全体報告ほか

全体報告

1 はじめに

平成15年1月18日(土)に,静岡において「阪神・淡路まちづくり支援から東海地震を考える~専門家職能と市民・行政の連携を~」と題するシンポジウムを開催いたしました。
 本シンポジウムは,まちづくり支援全国交流シンポジウム実行委員会と静岡県が共催して行ったものですが,この実行委員会を構成したのは,下記のように,静岡地区の専門家団体と,阪神地区の阪神・淡路まちづくり支援機構の構成団体ならびに神戸市という合計20を数える多数の団体でありました。
 <静岡地区>
静岡県弁護士会
東海税理士会静岡県支部連合会
静岡県土地家屋調査士会
社団法人静岡県不動産鑑定士協会
静岡県司法書士会
社団法人日本建築家協会東海支部静岡地域会
社団法人静岡県建築士会
社団法人静岡県建築士事務所協会
日本公認会計士協会東海会静岡県会
静岡県行政書士会
 <阪神地区>
兵庫県弁護士会
大阪弁護士会
近畿税理士会
土地家屋調査士会近畿ブロック協議会
社団法人日本不動産鑑定協会近畿地域連絡協議会
近畿司法書士会連合会
社団法人日本建築家協会近畿支部
近畿建築士会協議会
建築士事務所協会近畿ブロック協議会
 本シンポジウムは,東海地震が予想される静岡地区の防災・減災の意識の高まりと,阪神淡路大震災による被災後8年を経て全国へ向けた被災地責任の責務が呼応して,ここに開催されたものであり,今後の防災・減災・復興における全国的連携の礎になる意義ある会となりました。

2 開催の背景

 平成7年1月17日午前5時46分に発生した阪神淡路大震災は,未曾有の大被害をもたらしました。死者行方不明者6400人余,負傷者4万人という大惨事のみならず,全壊・全焼家屋25万棟・45万世帯,大規模な土地境界移動等の,およそ想像を絶する状況となりました。阪神地区の専門家団体は,各団体毎に相談活動等を行ってきましたが,平成8年9月4日,我が国で初めての専門家団体による横断的NPOである阪神・淡路まちづくり支援機構を設立させました。そして,相談件数237件,受理件数39件,派遣専門家数245名の案件を処理して,復興活動に寄与をしてきました。その活動を通じて感じたことは,このような平常時からこのような組織作りを作っておくべきであったという思いであり,この思いが全国にも強く呼びかけていかなければならないという考えを醸造していきました。
 他方,静岡地域においては,かねてより東海地震の発生が危惧されていましたが,近年の地震防災対策強化地域判定会,地震予知連絡会などの議論・研究が進むにつれて,大地震の発生が心配される状況となってきました。すなわち,震度6弱,死者5900名,建物全壊19万棟という具体的な地震被害が予測・公表されているのです。これに備えて静岡県庁では地震対策アクションプログラム2001が策定され,自治体,NPOレベルでの東海地震対策は日を追って緻密化,臨戦化しつつある状況にありました。そのような状況下で,それぞれの専門家団体においても,災害に対する何らかの対策と,専門家としての被災時貢献について考えを深めようという機運が高まってきていました。
 平成14年夏に,兵庫県弁護士会と静岡県弁護士会の各役員間で,自然災害問題について,相互に意見交換をする機会があり,これをきっかけに阪神・東海間でシンポジウムを共同開催することが現実化していったのです。

3 準備状況

 本シンポジウムの開催については,上記のように多くの団体によって実行委員会が構成されているという事情に加えて,距離の離れた地域間で準備を行わなければならないという特殊性から,準備についてはたいへんな労苦を伴いました。
 第1回準備会は,平成14年10月16日(水)静岡県弁護士会内にて行われましたが,その後,数回の準備会が重ねられ,「被災後」の阪神地区の専門家らの意識と,「被災前」の静岡地区の専門からの意識に,少なからぬギャップがあることが相互に認識されるようになりました。地震対策については,「震前」・「震後」に分けて考えるべきであるということは,観念的にはよく理解できるものの,その温度差・感覚の違いというものは無視できないことだと思われました。
 本シンポジウムのテーマは,次のとおりにまとまりましたが,それぞれのテーマにつき,「被災後」の経験と教訓を,「被災前」の対策と心構えに活かしていくというコンセプトは,この準備会でまとまったものです。言い換えれば,この準備会がなければ,本シンポジウムの議論に,熱い血を通わせることができなかったといえるでしょう。
 <テーマ>
・専門家は,災害発生時に,どのような寄与ができるのか
・専門家は,減災の観点から,いかなる活動をなし得るのか
・専門家は,どのような形で相互に連携をなし得るのか
・専門家は,自治体,NPO,研究者とどのように連携していくのか
 準備会を通じて,静岡地区のメンバーは被災時の状況を臨場感をもって知ることができ,阪神地区のメンバーは減災・防災の重要性を新しい切り口で知ることができ,次第に相互の信頼感をかたち作ることができました。とりわけ,広原盛明実行委員長(阪神・淡路まちづくり支援機構代表委員),静岡側の塩沢忠和静岡県弁護士会会長,青島伸雄同副会長,塚本高士静岡県防災局主幹,阪神側の戎正晴・永井幸寿兵庫県弁護士会両副会長,安崎義清兵庫県司法書士会元副会長,松岡直武日本土地家屋調査士会連合会副会長には,準備段階において特段の労を割いていただきました。
 阪神地区メンバーは,前日の平成15年1月17日(金)に静岡入りし,阪神・静岡のそれぞれの専門家団体が一堂に会して,最終的な意見交換が行われました。さらに,当日,午前中には,共同作業でシンポジウムの準備作業を行う傍ら,出席メンバーらによるリハーサル兼意見交換が入念に行われました。

4 当日の状況

 本シンポジウムは,平成15年1月18日(土)午後1時~5時,静岡県女性総合センター「あざれあ」において開催されました。
 出席者数400名(満席),NHKをはじめとするテレビ局の取材も多数訪れ,大変な関心を集めることとなりました。
 青島伸雄静岡県弁護士会副会長の開会宣言,広原盛明実行委員長の挨拶の後,本題に入りました。本シンポジウムは,2部構成となっており,第1部は講演,第2部はリレートークでした。
 第1部の講演は,東京大学名誉教授・地震防災対策強化地域判定会会長の溝上恵先生による「東海地震をめぐる最近の状況」と題するものでした。地震防災対策強化地域判定会は,大規模地震対策特別措置法によって設置された気象庁長官の諮問機関ですが,地震計や体積歪計のデータを刻一刻に把握し,データに異常が認められたときに,東海地震につながる異常かどうかを判定します。この講演では,阪神淡路大震災発生の機序を踏まえた上で,東海地震が発生するメカニズムについて,最新の具体的なデータを示しながら,分かりやすく解説がなされました。東海地震は,阪神大震災の30倍の力を持つマグニチュード8級のものが予想される規模であり,どれほど現実化の危機が迫っているかというと「飛行機に例えれば,既に離陸を始めた段階である」という比喩的な表現で,その準備の必要性をコメントされました。なお,溝上先生は,当日,かなりひどい風邪をひいておられ,声が大変出にくい中にもかかわらず真摯にご講演いただき,感謝の念に堪えません。
 第2部のリレートークは,まずはじめに,自治体からの基調報告をいただきました。冒頭に,静岡県防災局長の田邊義博氏から,東海・東南海・南海地震から予想される被害と,これに対する静岡県における行政・民間によるそれぞれの対策の現状が体系的に報告されました。引き続き,神戸市住宅局住環境整備部部長の橋本彰氏から,阪神・淡路大震災時における神戸市の復興事業のアウトラインと,震災時に発生する前例のない難しい問題が具体的に紹介され,これに対応するためには,行政だけでなく,専門家,NPOの連携が必要であるということが強調されました。
 この基調報告に続いて,リレートークが行われました。リレートークとは,限られた時間の中で多種多様な発言を行えるようにするための新しいスタイルのパネルディスカッションです。イメージとしては,コーディネーター(大阪弁護士会斎藤浩氏,静岡県災害救援ネットワーク清水康子氏)を中心にして,リレートーク・メンバーが,それぞれの立場からの発言をリレーしていくというもので,出演者(リレートーク・メンバー)は,合計23人となりました。リレートーク・メンバーは,右側には阪神・淡路まちづくり支援機構の構成9団体の専門家と神戸市が並び,左側には静岡の8職種10団体の専門家と静岡県のほか,NPO代表(特定非営利法人市民基金KOBE),研究者代表(東京都立大学教授),東京法律相談連絡協議会代表を加えたメンバーが並び,実にそうそうたる面々が熱心な議論を交わしました。
  <リレートーク・メンバー>
 杉崎修二(静岡県総務部防災局防災政策室長) 防災自治体の立場から
 橋本 彰(神戸市住宅局住環境整備部長) 被災地復興自治体の立場から
 森川憲二(兵庫県弁護士会)    弁護士の立場から
 渥美利之(静岡県弁護士会)
 中野明安(第二東京弁護士会,東京法律相談連絡協議会)
 安崎義清(近畿司法書士会連合会)        司法書士の立場から
 芝  豊(静岡県司法書士会)
 佐藤庸安(近畿税理士会)            税理士の立場から
 釜下昭彦(東海税理士会静岡県支部連合会)
 植中紀夫(東海税理士会静岡県支部連合会)
 樋口幹典(土地家屋調査士会近畿ブロック協議会)  土地家屋調査士の立場から
 増田嘉裕(静岡県土地家屋調査士会)
 近藤久男(社団法人日本不動産鑑定協会近畿地域連絡協議会) 不動産鑑定士の立場から
 冨田稲子(社団法人静岡県不動産鑑定士協会)
 岡本昭夫(静岡県行政書士会) 行政書士の立場から
 橋本勝治(静岡県行政書士会)
 橋本和利(建築士事務所協会近畿ブロック協議会) 建築士の立場から
 大海一雄(近畿建築士会協議会)
 伊村善郎(社団法人静岡県建築士事務所協会)
 西山昌行(社団法人静岡県建築士会)
 杉原五郎(㈱地域計画建築研究所大阪事務所)  都市計画家の立場から
 黒田裕子(特定非営利活動法人 しみん基金・KOBE) NPOの立場から
 高見沢邦郎(東京都立大学大学院工学研究科教授) 研究者の立場から
 議論の内容の詳細は,後掲の速記録に譲りますが,阪神側からの「災害時には予想もできない困難な問題が多量に発生する」「災害時には専門家の職能は不可欠である」「特にまちづくりには専門家,行政,NPOの連携は不可欠である」「支援機構設立に1年8ヶ月も要したことは最大の反省点である」「平常時から支援機構のような組織を作っておくべきである」などという意見が特徴的でした。これに対して,静岡側からの「広域被災が予想される静岡では,拠点をどこに置くかが問題である」「相談体制の敷き方について特別の配慮が必要である」「専門家団体の連携を実現する上での困難な点は何か」「全域がダメージを受けたときに備えて全国的な連携のあり方をどうすべきか」といった問題提起は座視できない問題と思われました。また,NPOからは「市民の視点で,使いやすい支援機構になるべきである」との指摘があり,東京法律相談連絡協議会からは「東京でも自治体,専門家団体間のネットワークを構築中である」という発言もありました。会場からも活発な発言がなされました。
 総じて言えば,極めてレベルの高い議論が,上手に整理され,その結果,成果の大きい内容が得られたものと言えるでしょう。
 最後に,飯田恵一郎静岡県建築士会会長から,静岡においても支援機構と同じように専門家の連携した組織を立ち上げたい旨の挨拶がなされ,本シンポジウムが締めくくられました。

5 評価会

 本シンポジウムに引き続き,評価会が行われ,本シンポジウムの感想を踏まえて,今後の連携のあり方についてスピーチによる意見交換がなされました。
 その場に,実弟を震災で失ったことをきっかけに全国各地で阪神・淡路大震災のチャリティーコンサート活動を行っている歌手の森祐理さんに来ていただき,歌とスピーチをいただきました。その歌声とお話は胸に迫るものがあり,出席者に深い感動を与えました。
 これを受け,静岡県弁護士会河村正史(平成15年度会長)から,静岡県においても早期に専門家連携組織を立ち上げたい旨の力強いスピーチをいただきました。

6 その後

 本シンポジウムをきっかけに,静岡では数回にわたり専門家団体による会合を重ね,平成15年8月30日(土)に東海地震対策士業連絡会が発足することとなりました。平常時からの専門家団体による横断的連携組織を全国で初めて発足したものであり,本シンポジウムの喜ばしい成果と位置付けられます。
 また,阪神側でも,本シンポジウム以降に発生した宮城県での地震に対しては,本シンポジウムで得られた成果を伝えるなどして,その成果を有効に活用しています。
 本シンポジウムの成果が,いかに大きなものであったかを象徴するものと言えます。

7 まとめ

 本シンポジウムは,財団法人阪神・淡路大震災記念協会による「阪神・淡路大震災周年記念事業」から補助金を受けて実施されました。そして,上記のとおり,実に多くの方々のご協力,ご理解を得てようやく実現に至ったものです。ここに,ご協力いただいた構成団体,自治体,そのほか多くの関係者各位に対し,心より厚く御礼申し上げます。
 本シンポジウムは,阪神地区と静岡地区の間における,かけがえのない交流の礎を形成しました。今後も,交流を重ね。来たる日の災害に備え,全国的な広域連携支援が図れることを願っております。

まちづくり支援全国交流シンポジウム実行委員会
事務局長 津久井進

8 その他