ミニシンポジウム『これからの災害と専門職能の役割』(2008年9月12日)
1 平成20年9月12日(金)に開催されたミニシンポジウム『これからの災害と専門職能の役割』をご報告させていただきます。
2 阪神・淡路まちづくり支援機構の代表委員は実務家と研究者の2名となっており,現在は,実務家代表として当会の元原利文先生,研究者代表として東京都立大学名誉教授・明治大学客員教授(都市計画専攻)高見澤邦郎先生に務めていただいています。
初代の代表委員は,北山六郎先生,龍谷大学名誉教授・元京都府立大学学長広原盛明先生でした。初代代表委員は,専門士業団体を横断的に連携した組織を新設するという前例のない画期的な取り組みを実現するにあたって,多大な貢献をされました。その功績を称えるため,退任後は名誉代表委員を務めていただいています。しかし,北山先生は平成20年初頭に逝去されました。そこで,当機構は,北山先生を追悼するため記念行事を行うこととしました。
3 議論に議論を重ねた結果,震災後の当機構の足跡を振り返ると共に,初代代表が志した当機構の意義や目的を再確認して,“災害時に専門家に何ができるのか”をあらためて見つめ直すミニシンポジウムを開催することになりました。
議論する中で気付いた点ですが,現在の状況を観察してみると,阪神・淡路まちづくり支援機構の新たな転機を考える上で,重要なポイントと位置づけることができると思います。
支援機構の第1期は,震災復興期にまちづくりの現場に出向いて具体的な支援活動を展開するフェーズでした。第2期は,活動を総括して教訓として整理し,これを全国各地に広げ,各地の専門家同士が連携しあう基礎を作っていくというフェーズでした。そして第3期は,あらためてこれから予想される災害に備えて具体的な展開をしていくフェーズだと考えられます。今回のシンポジウムは,ちょうどこの第3期の幕開けにふさわしい機会というべきものです。もともと支援機構は,それぞれの専門家としての高度な職能が集まって,文字どおり英知と経験の結集によって成り立っています。したがって,私たちがあらためて認識すべきことは,それぞれの専門家職能が「何ができるか」ということです。
そこで,1本目の柱として,各専門家の災害時において発揮すべき職能の根本を見つめ直すことをテーマに据えました。2本目の柱として,これまでの経過があって今日があるということを確認するため,支援機構の足跡を再認識することとしました。そして,3本目の柱は,これらふまえて次の災害に備えて現代にマッチした形で機構の構成団体や自治体との連携のあり方を考える,すなわち,これからの支援機構のあり方です。
4 平成20年9月12日(金)は当機構の定時総会が予定されていましたが,これに合わせて『これからの災害と専門職能の役割』と題するミニシンポジウムを実施することにしました。シンポジウムの案内は次のとおりです。
私たちの暮らす日本列島は,平成7年1月17日の阪神・淡路大震災以降,地震活動期に入って深刻な被害が続いています。世界的に見ても,台風,水害等の自然災害が続発しています。災害対策は,今や,自治体,企業,市民にとって最も重要な課題です。そして,弁護士,司法書士,土地家屋調査士,税理士,不動産鑑定士,建築士をはじめとする専門家には,「災害時に何ができるか」,「被災地で何をすべきか」が問いかけられています。これからの災害時における専門職能の役割と,相互の連携のあり方について,この12年間の阪神・淡路まちづくり支援機構の活動の軌跡を振り返りながら検討します。
このシンポジウムの実現のために,当機構の構成職能がフル回転で準備をしました。土地家屋調査士会,司法書士会,弁護士会を中心に,支援機構の広報案内をフル・リニューアルしました。市民向けのパンフレットも新たに作成しました。この機会にロゴマークも新設しました。
各士業ごとに好みやこだわり所も異なっており,そこに代表委員の高見澤先生のデザインセンス等も融合し,なかなか素敵なマークができたと自負しています。
さらに,今回の企画を通じて,市民,行政,専門士業が相互に連携できる素地を形成したいという思いから,行政等への呼び掛けを行うことにしました。税理士会,建築士事務所協会等の平素の伝手をフル活用して,兵庫県や神戸市の災害対策部門に当機構の活動をアピールしてきました。
5 シンポ当日の9月12日を迎え,総合司会は河瀬真事務局次長が担当し,次のプログラムのとおり進行しました。
(1) 開会挨拶(代表委員;元原利文)
(2) 基調講演『阪神淡路まちづくり支援機構は,どのように創り,どのように活動したか~その歴史的な意義と活動の成果・限界並びに教訓』(初代事務局長;森川憲二 弁護士)
(3) 朗読劇『星になったあの子』(朗読グループ“うぃっしゅ”)
(4) リレートーク『これからの災害と専門職能の役割』(阪神・淡路まちづくり支援機構の構成団体の弁護士,司法書士,税理士,土地家屋調査士,不動産鑑定士,建築士による)
(5) 閉会挨拶(代表委員;高見澤邦郎)
森川先生の基調講演では,支援機構の創世から活動全盛期にかけての表と裏,すなわち活動の実績と,“今だから言えること”も交えた数々の問題点の指摘が,迫力をもって伝えられました。いかに災害時における専門職能の連携が重要であるかを再確認し,当機構の設立が社会的意義を持つことを再認識することができました。そして,それと同時に復興過程で当時問題となった数々の課題が未だ解決されていない現実も直視することもでき,その意味では,まだまだ復興の道半ばであることを考えさせられました。
リレートークでは,各士業団体の代表が壇上に上がり,私がコーディネーターを務め,“災害時にそれぞれの職能を活かしていったい何ができるのか”をテーマにディスカッションが行われました。震災は一気に到来する事象です。しかし,その後の復興の道のりは長く・複雑であることから,専門職能の経験に裏打ちされた知恵をパッチワークのように組み合わせて初めて成し遂げられるものであることを,十分伝えることができたと思っています。
プログラム中の朗読劇『星になったのんちゃん』は,阪神淡路大震災の現実をストレートに伝えるものでした。これまでも当機構のシンポジウムでは,震災を「心で感じる」ために,エンターテーナーの方々に出演いただいてきました。今回はたった5歳で生涯を閉じた小西希さんの思い出を母自身が書き綴った実話を,朗読グループ「うぃっしゅ」(主催者五十嵐有香さんの震災体験やJR脱線事故負傷経験から命の大切さを伝えるボランティアグループ)が情感を込めて朗読しました。会場にはすすり泣く声も響いていました。
6 わずか1時間半程度の短時間のシンポジウムではありましたが,収穫はたいへん大きかったと思います。それと同時に,重大な課題にも直面したような気がしています。高見澤代表が閉会挨拶で,「震災直後の第1期,復興過程の第2期に区切りがつき,今や第3のステージを迎えようとしているが,この新たな局面に当機構が対応できるかどうかが問われている」という趣旨の指摘をされましたが,まさにそのとおりです。
当機構の今後の活動は,このまま従来どおり踏襲を続けていくことは,もはや許されません。新たなメンバーの拡充と,新たな活動の基軸作りに,早急に取り組まなければならないと感じています。
7 今回のシンポジウムを開催するに当たって,事務局委員を務める各構成団体の専門家士業の方々には,多大な労力や時間を割いていただきました。
また,今回は,新しい時代の支援機構を模索するため,兵庫県や神戸市の関係部署に,理解と協力を求める努力を行いました。ゆくゆくは,東京都と,東京の災害復興まちづくり支援機構が締結をしているような協定の策定につなげていきたいという思いもあります。
今回のシンポジウムを機に,来年で15年目を迎える被災地において,本当に苦難に直面する災害の場面で有用となる専門家集団としてのアイデンティティを高めていきたいと思います。
本当にありがとうございました。
阪神・淡路まちづくり支援機構 事務局長 津久井進